宮沢賢治/作
池田浩彰/絵
         講談社



注文の多い料理店

 宮沢賢治/作
 池田浩彰/絵
        

山の中は、
風がどうどうふき、
草はざわざわ、
木はごとんごとんなっていました。

東京から来た 鉄砲撃ちの2人の紳士は、
山奥で道に迷い、
いつのまにか 犬もどこかへ行ってしまって、
がっかりしながら 道を探していました。

その時 ふと気がつくと 
立派な一軒の 西洋造りの家がありました。


玄関にはレストラン 「山猫軒」
と札がでていました。

玄関はガラスのひらき戸が立って、
そこにはこう書いてありました。


「どなたでも どうか お入り下さい。
決して ご遠慮はありません。」

ずんずん廊下を進んでいきますと
今度は水色の扉がありました。

扉を開けようとしますと、
上に こう書いてありました。

「どうか 帽子と 外套と 靴を おとり下さい。
ことに鉄砲と弾(たま)は ここに置いてください」

「どうだ とるか?」

「仕方ない とろう。確かによっぽどえらい人が奥に来ているんだなぁ。」

二人は 帽子と オーバーコートを 脱ぎ
鉄砲と弾(たま)を置きました。

靴もぬいでぺたぺた歩いて廊下を行きました。

どうしたものか 又扉があり 
その脇に
と、ブラシがおいてあります

扉には
「お客さまがた、ここで 髪をきちんとして下さい」と 書いてあります。

つぎに、緑の扉がありました

「ネクタイピン カフスボタン、眼鏡、金物類
ことに尖ったものはここに 置いて下さい。」

と 書いてありました。

扉を開けると 硝子の壺が ありました。

「壺の中のクリームを 顔や手足に
すっかり塗って下さい」

壷の中のものは 牛乳のクリームでした。

「料理は もうすぐ食べられます。
早くあなたの頭に 瓶の中の香水を 
よく振りかけて下さい」

2人は頭に ちゃぱちゃ振りかけました。

「あれ この香水 変に酢臭いよ」
「きっと まちがえたんだ」

「色々注文が多くて うるさかったでしょう。
もうこれだけです。

どうか 体の中に 壺の中の塩をたくさん
よくもみ込んで下さい」

そこには 塩の壷が置いてありました
今度という今度は 2人とも ぎょっとして  

「おかしいぜ」

「おい君 注文の多い料理店というのは 
むこうが こっちへ 注文してくるんだよ」

「だからさ 来た人に食べさせるのではなく、」

「その、、つ、つ、つ、つまり、、 ぼ、ぼ、ぼ、僕らが 、、、」

がたがたがたがた ふるえだしました。

戸の穴から 金色の目が光っています
2人は 泣いて泣いて泣いて泣いて泣きました。

その時「わん わん ぐわぁ!」と白い犬が2匹
扉を突き破って 飛び込んで来ました。

部屋は、煙のように消え 二人は、寒さに震え 森の中に立っていました。

その後 
紙屑みたいにくしゃくしゃになった二人の顔は
お湯に入っても 
もう 元のとうりに治りませんでした。