てんぐとかっぱとかみなりどん

かこ  さとし / 脚本
二俣 英五郎 /  画
むかしむかしあるところに、
山があって、そのふもとに沼があって、
その沼のそばに、大きな杉の木がたっていました。
沼には、
くいしんぼうのカッパどんが住んでいました。
杉の木には、
えばりんぼうのてんぐどんが住んでいました。
山の上の雲には、
あばれんぼうのかみなりどんが住んでおりました。
ある日のこと、山のふもとから、
炭焼きのとうべいさんが、
えっちらおっちらやってきました。
とうべいさんが、沼のそばまでやってくると、

「炭焼きとうべえー、ちょっとまてー……。」
「お前の家の子は、鼻をたらしているだろう。
おれさまはそういう子のおしりに、
塩をつけて食べるのが大好きじゃ。

明日の昼までに、子どものおしりを持ってこい。
持ってこないと、ひどい目にあわせるぞ。」  
そういえば、うちの子はよく鼻をたらしていたなあ。

おしりに塩をつけて、
カッパどんに食べられたらどうしよう。
ああ…こまった、こまった、どうしよう。

☆ えっちら こまった おっちらさ
☆ えっちら よわった おっちらさ…
「炭焼きとうべえー、ちょっとまてー……。」
「お前の家の子は、なきむしだろう。
わがはいそういう子のほっぺたを、
みそづけにして食うのが大好きじゃ。

明日の昼までに、子どものほっぺを持ってこい。
持ってこないと、ひどい目にあわせるぞ。」     
そういえば、うちの子は
ころんだと言っては泣いてたなあ。

ああ、ほっぺたをてんぐどんにとられて、
みぞずけにされてしまったらどうしよう。」
ああ…こまった、こまった、どうしよう。

☆ えっちら こまった おっちらさ
☆ えっちら よわった おっちらさ…
「炭焼きとうべえー、ちょっとまてー……。」
「お前の家の子は、おなかを出して寝るだろう。
オレさまはそういう子の、
へそを食べるのが大好きじゃ。

明日の昼までに、子どものおへそを持ってこい。
持ってこないと、ひどい目にあわせるぞ。」      
そういえば、うちの子は、
おなかを丸出しにして寝ていたのお。

ああ、おへそをかみなりどんにとられて、
佃煮にされたらどうしよう。
ああ…こまった、こまった、どうしよう。

☆ えっちら こまった おっちらさ
☆ えっちら よわった おっちらさ…
「おとうちゃーん。どうしてそんな顔をしてるの?」
とうべえさんが、息子のとうへいちゃんに訳を話すと

なぁーんだ、そんなことか。わけないよ、おとうちゃん。」
さて、その翌朝、日がのぼると、
とうへいちゃんは沼まで歩いてきました。

「おしりの好きなカッパさーーん。」

「明日ね、よくわかるように、黒いふろしきに包んで、
山の上においときますから、取りに来てくださいね。」
「次は、ほっぺの好きな、てんぐさーーん。」

「明日来たら、大きな声で合図しますから
出て来てくださいね。」
「次は、おへその好きな、かみなーりさーん。」

「明日、すぐ分かるように、
沼のところにおいときますから、取りに来てくださいね。」
さあ、その翌日のお昼ころ、
カッパどんが、沼の中から山の上の黒くもを見て
「あれが、おしりを包んだ黒いふろしきだな。」
と、喜んで、ぽっかり頭を水の上に出しました。

それを見つけた、雲の上のかみなりどんは、
「やあ、待ってたおへそだぞ。
あっはっはのゴロゴロゴロ。」
ゴロゴロという音を聞いたてんぐどん。
「約束の合図だぞ、それゆけ!」
 
と、飛び出しました。
さあ、三人がいっぺんにぶつかったから、たまりません。
ゴロゴロ、ガラガラ、ドスンビシャン
ガチャン、グチャン、ボッチャーーン
「うわ、いたいようー。」
「あついようー。」
「こぶ、できたあー。」
と、カッパどんも、てんぐどんも、かみなりどんも、
泣きべそかいて、逃げて行きました。
こうして、ちいさなとうへいちゃんが、
くいしんぼうで、えばりんごうで、あばれんぼうの
カッパと、てんぐと、かみなりどんをやっつけたお話も、
ゴロゴロ ガッチャンと おしまいです。

童心社