昔、紀の国の日高の里に美しい女の子が生まれました。
子供はすくすくと育ちましたが、いつまで経っても子供の頭には髪の毛が生えません。
しかし、母親の犠牲によって丈なす黒髪に恵まれ「かみながひめ」と呼ばれるようになりました。
ひめは「お母さんが命と引き換えて観音様から頂いた髪だ」というので、
髪の毛が抜けてもけっして捨てず、美しい桜の花の咲く枝にそっとかけておきました。
ある日、その一筋を使い、燕が巣をかけました。それは、藤原不比等の屋敷の門でした・・・
ひめはやがて藤原不比等の養女となって入内し、文武天皇の后となりました。
そして生まれ故郷の日高の里に、母と観音様をお祀りする寺を建立して下さるよう,、天皇にお願いしました。それが今も和歌山県にある道成寺です。
道成寺は、安珍清姫の伝説で有名ですが、「かみながひめ」の物語がもとなのです。
子を思う母の祈りや、母を慕うひめの気持ちを映すかのように、
春になると道成寺の庭は美しい桜の花でいっぱいになるそうです。
『かみながひめ』
有吉 佐和子(ありよし さわこ)/文
秋野 不矩(あきの ふく)/絵
ポプラ社
(表紙画像掲載は
出版社の承諾を得ています)