「リンゴの木」

春、果樹園はナシ、スモモ、サクラの白い花におおわれた。
枝は曲がってよじれ、幹の皮はざらざらひびだらけの
古いリンゴの木にも花が咲いた。
一本だけ淡いピンクの花・・・

小鳥や動物たちが、果樹園の木に巣を作ろうとやって来た。
けれど、ナシ・スモモ・サクラは
「騒がしくされるのはまっぴら」「実を食べられるのはごめんだ」と
巣を作るのを許さなかった。
「いったいどこへいけばいいのか」と途方にくれる動物たちに
リンゴの木は「私のところへおいで」と全てを受け入れた。

やがて冬がやって来た。
小鳥や動物たちの子供たちが巣立ったあとの果樹園は
寒さと雪に覆われて
木々たちは「さみしい」「たいくつ」と嘆いた。
しかし、リンゴの木だけは違った。
木の洞の中のヤマネがリンゴの木を温めた。
そして木の皮の下で眠る蝶のたまごの事や
小鳥達が巣立っていく様を夢に見た。

リンゴの木は1人でニコニコ笑っていた。

直線上に配置

(表紙画像掲載は
 出版社の承諾を得ています)

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アンゲーリカ・カウフマン絵
ミーラ・ローペ文
八木 博 訳

女子パウロ会